世界最南端の流氷のまち、知床

北方四島に行かれない現状としては、知床は日本の最北端と言っても良い場所です。冬には流氷が流れ着き、これによって発生するプランクトンを餌としてサケなどの魚介類が生息しています。サケは知床の川をのぼり、ヒグマやオジロワシの餌となり、そのふんは植物の栄養に。食物連鎖の不思議を目の当たりにできる自然豊かな土地です。

流氷がはぐくむ特異な生態系が普遍的な価値として認定され、2005年に、日本で最初の自然遺産として登録されました。大自然と人間の暮らしが共存する世界で最も珍しい「自然」の街です。

海獣に恵まれた海域

日本近海にはクジラの他、多種多様な海生哺乳類が生息しています。このような多様性は、世界的に見てもアメリカやオーストラリアぐらいにしかなく、大陸以外では日本だけで、我が国の海の際立った特殊性と言えます。知床の沿岸には、トド、オットセイ、アゴヒゲアザラシ、ゼニガタアザラシ、ゴマフアザラシ、ワモンアザラシ、クラカケアザラシなどが見られる他、ラッコもまれに見られます。

アメリカでは海洋哺乳類保護法により、特にトドについては厳格に保護をしています。日本からアラスカおよびロシアに生育するトドの生態は不明で、個体数が減少していることから絶滅危惧種とされています。アメリカ・カマダ・ロシアの三国では共同研究を行っています。

トドは保護されなければならないものとされる一方で、知床地区のサケを捕獲する動物であるため、漁業者の生き残りのためには駆除せざるを得ない動物でもあります。世界遺産登録の際には、「サケ減少」が危惧されており、サケとトドの両方を守ろうとすると、漁業者がサケの漁獲をあきらめざるを得なくなるというジレンマが生じています。

自然のままの自然ではない点が独特

知床の自然には人間の働きかけにより生まれた自然があります。この地は漁業生産の中心でもあります。断崖には漁業用の番小屋が張り付いており、その人工的建物も含めて景色として「自然」が出来上がっています。

荒々しく厳しい自然の中で生きる人々の生活も見られるところが、知床の美の神髄とも言われています。また、考古学的には、縄文時代の人類の居住跡が発見されており、2千年も以前から狩猟や漁業のための自然利用がおこなわれてきた地域という一面もあります。未開の原生林のように思われている森も、はるか昔から人間が開拓してきています。奥地でも択伐を受け一部は農地にもなっています。

人間の力と大自然とが互いに競い合って作られた「自然」のある街。世界に類を見ない自然遺産です。